以前の記事でカスタム認証を動作させるために、表のSELECT権限をPUBLICに与えました。そのときの記事の本題ではないとはいえ、あまり良くない方法ではあります。そこで、カスタムの認証スキームの保護について、ユーザー情報を直接参照することをを禁止した上で、認証スキームのファンクションを実行できる実装をいくつか行ってみます。
確認に使用する環境はAlways FreeのAutonomous Transaction Processingになります。特別な機能は使用しないので、その他の環境でも同様に実装可能でしょう。APEXのワークスペースとしてAPEXDEVが作成済みで、それを使用して確認を行います。
認証スキームのためのスキーマの作成
最初に認証スキームに使うデータを保持するスキーマを作成します。認証情報を保持するスキーマを、APEXのワークスペースのスキーマや、ユーザー・データを保持するスキーマと分離することにより、認証に使用する情報をそれらのスキーマから直接参照できないようにします。
ユーザーADMINにてデータベース・アクションに接続し、データベース・ユーザーを開きます。
ユーザー名をCUSTAUTHとします。パスワードを指定し、WebアクセスをONにします。表領域の割り当て制限 DATAとして25Mを割り当てます。今回の実装例では認証データは微々たるものなので25Mバイトを割り与えていますが、もっと多く(最大はUNLIMITED)割り与えてもよいでしょう。ユーザーの作成を実行します。
ユーザーCUSTAUTHが作成されました。認証スキームが使用する表やファンクションなど、認証に関するすべてのデータベース・オブジェクトは、このCUSTAUTHのスキーマに作成します。
認証スキームに使用するオブジェクトの作成
こちらの資料(Oracle APEX勉強会 - 認証と認可の実装を学ぶ)で紹介した認証スキームを実装します。
ユーザーCUSTAUTHでデータベース・アクションに接続し、開発のSQLを開き表MY_USERSを作成します。以下のCREATE TABLE文を実行します。
CREATE TABLE "MY_USERS"
(
"ID" VARCHAR2(32),
"USER_NAME" VARCHAR2(30) NOT NULL ENABLE,
"PASSWORD" VARCHAR2(256),
PRIMARY KEY("ID") USING INDEX ENABLE
);
ユーザーの登録を行います。ユーザー名はTESTUSER、パスワードはmypass7777です。以下のPL/SQLコードを実行します。
declare
l_id my_users.id%type;
begin
l_id := rawtohex(sys_guid());
insert into my_users(id, user_name) values(l_id,'TESTUSER');
update my_users set password = rawtohex(standard_hash('mypass7777'||id||user_name, 'SHA512'))
where id = l_id;
end;
/
認証スキームとなるファンクションmy_authenticationを作成します。
create or replace function my_authentication (
p_username in varchar2,
p_password in varchar2 )
return boolean
is
l_user my_users.user_name%type := upper(p_username);
l_pwd my_users.password%type;
l_id my_users.id%type;
l_hash my_users.password%type;
begin
select id, password
into l_id, l_pwd
from my_users
where user_name = l_user;
select rawtohex(standard_hash(p_password||l_id||l_user, 'SHA512'))
into l_hash
from dual;
return l_pwd = l_hash;
exception
when NO_DATA_FOUND then
return false;
end;
/
作成したファンクションをユーザーAPEXDEVから呼び出せるように、実行権限を与えます。
grant execute on my_authentication to apexdev;
以上で認証スキームとして使用するファンクションや、それが利用する表が作成されました。サインインに使用するユーザーTESTUSERも登録済みです。
テスト用アプリケーションの作成
テストに使用するアプリケーションを作成します。アプリケーション作成ウィザードを実行し、アプリケーションの名前を認証スキームの確認として、アプリケーションの作成を実行します。何の機能も含まないアプリケーションが作成されます。
アプリケーションが作成されたら、共有コンポーネントの認証スキームを開き、作成を実行します。
スキームの作成として、ギャラリからの事前構成済スキームに基づくを選択します。次に進みます。
名前はCUSTAUTHとし、タイプとしてカスタムを選択します。認証ファンクション名としてcustauth.my_authenticationを指定します。認証スキームの作成を実行します。
作成された認証スキームはすぐにカレントの認証スキームになります。ページを実行して、サインインの確認を行います。
ユーザー名testuser、パスワードmypass7777でサインインに成功します。それ以外ではサインインはできません。
以上でテスト用のアプリケーションも作成できました。
保護の確認
PL/SQLによるプロシージャ、ファンクションおよびパッケージは特別な指定がない限り、デフォルトでは定義者権限にて実行されます。定義者権限について、マニュアルでは以下のように説明されています。
定義者権限プロシージャのユーザーに必要なのは、そのプロシージャを実行する権限のみで、そのプロシージャでアクセスする基礎となるオブジェクトに対する権限は不要です。これは、定義者権限プロシージャは、その実行者に関係なく、プロシージャを所有するユーザーのセキュリティ・ドメインの下で動作するためです。
今回の例に当てはめて説明します。
作成したファンクションmy_authenticationはスキーマCUSTAUTHに作成されているため、CUSTAUTHの権限で実行されます。ファンクションmy_authenticationの実行権限があれば、ファンクション内でアクセスしている表などのオブジェクトのアクセス権限は不要です。それらはCUSTAUTHが持つの権限でアクセスされるためです。
ユーザーAPEXDEVは表CUSTAUTH.MY_USERSへのアクセス権限は持ちませんが、ファンクションmy_authenticationの実行権限は与えられています。そのため、受け取ったユーザー名、パスワードが正しいかどうかファンクションmy_authenticationを呼び出して検証することはできます。しかし、登録済みのユーザー名の一覧やハッシュ化されたパスワードを直接参照することはできません。
オラクルでは定義者権限がデフォルトの設定になります。
実際にSQLワークショップのSQLコマンドより以下のSQLを実行すると、ORA-00942: 表またはビューが存在しません。が発生します。
select * from custauth.my_users;
テスト用アプリケーションではファンクションmy_authenticationが呼び出され、ユーザーTESTUSERにて認証が成功できていることは確認済みです。実際にどのようなアクセスが発生しているのか、表CUSTAUTH.MY_USERSの監査証跡を取得して確認してみます。
ユーザーADMINにてデータベース・アクションに接続し、以下のSQLを実行します。
create audit policy apex_custauth
actions
select on custauth.my_users
when '1=1'
evaluate per statement
;
audit policy apex_custauth;
テスト用のアプリケーションを実行し(サインイン済みの場合は一旦サインアウトし)、サインインを行います。サインインを行なったのち、ビューUNIFIED_AUDIT_TRAILを確認します。
select
sql_text, sql_binds, current_user, client_identifier
from unified_audit_trail
where 1=1
and object_schema = 'CUSTAUTH'
and unified_audit_policies = 'APEX_CUSTAUTH'
order by event_timestamp desc;
current_userがCUSTAUTHとなっていることより、認証スキームのファンクションmy_authenticationが、その認証スキームを実行しているユーザーAPEXDEVではなく、ファンクションmy_authenticationが定義されているユーザーCUSTAUTHにて実行されていることが確認できます。
大抵の場合、PL/SQLのプロシージャ、ファンクションおよびパッケージは定義者権限による実行が適切です。
実行者権限でのファンクションの実行
PL/SQLのファンクションは呼び出したユーザーの権限で実行させることも可能です。その場合はコードにauthid current_userを含めます。ファンクションmy_authenticationを実行者権限で動作するように改変します。
ユーザーCUSTAUTHでデータベース・アクションに接続し、SQLより以下を実行します。authid current_userの記述を追加しています。
create or replace function my_authentication (
p_username in varchar2,
p_password in varchar2 )
return boolean
authid current_user
is
l_user custauth.my_users.user_name%type := upper(p_username);
l_pwd custauth.my_users.password%type;
l_id custauth.my_users.id%type;
l_hash custauth.my_users.password%type;
begin
select id, password
into l_id, l_pwd
from custauth.my_users
where user_name = l_user;
select rawtohex(standard_hash(p_password||l_id||l_user, 'SHA512'))
into l_hash
from dual;
return l_pwd = l_hash;
exception
when NO_DATA_FOUND then
return false;
end;
/
authid current_userの追加以外に、表MY_USERSにスキーマCUSTAUTHの指定も含めています。実行者権限での実行で単に表MY_USERSが指定されている場合は、実行者のスキーマに含まれている表を参照します。(この場合、表APEXDEV.MY_USERSを参照しようとします)
ファンクションmy_authenticationはユーザーAPEXDEVとして実行されるため、表MY_USERSへのSELECT権限が必要です。以下のGRANT文を実行します。
grant select on my_users to apexdev;
テスト用アプリケーションを実行し、ユーザーTESTUSERでサインインします。正常にサインインされるはずです。
ユーザーADMINにてデータベース・アクションに接続し、ビューUNIFIED_AUDIT_TRAILより、認証を行うために実行されたSQLを確認します。current_userがAPEXDEVであることが確認できます。
コード・ベース・アクセス制御の設定
表MY_USERSへのSELECT権限をユーザーAPEXDEVに与えると、登録されているすべてのユーザーの情報を、APEXDEVから参照することができるようになります。これは望ましくないため、ファンクションmy_authenticationを通したときだけ、表MY_USERSの参照を可能にします。
ユーザーCUSTAUTHにロールを作成する権限を与えます。
grant create role to custauth ;
ユーザーCUSTAUTHでデータベース・アクションに接続します。SQLから以下を実行します。ユーザーAPEXDEVより表MY_USERSのSELECT権限を削除します。表MY_USERSのSELECT権限を含んだロールCUSTAUTH_MY_USERSを作成し、そのロールをファンクションMY_AUTHENTICATIONへ割り与えています。
revoke select on my_users from apexdev;
create role custauth_my_users;
grant select on my_users to custauth_my_users;
grant custauth_my_users to function my_authentication;
以上の設定により、テスト用アプリケーションのサインインは問題なく行えるようになります。ユーザーtestuser、パスワードmypass7777にてサインインします。
アプリケーションの画面が開きます。
この状態でSQLコマンドより表CUSTAUTH.MY_USERSを検索すると、ORA-00942: 表またはビューが存在しません。が発生します。これは期待している動作です。
以上で、認証に使用する情報を保護した上で、認証スキームを実装する方法の紹介は終了です。
Oracle APEXのアプリケーション作成の参考になれば幸いです。
完